ゼロウェイストソーイングを始めよう!

ゼロウェイストソーイングを始めよう!

参考文献: Elizabeth M Haywood (2020).『Zero Waste Sewing』.COOATALAA PRESS. pp.8-9

大切な生地を無駄にしないソーイング

今日は、ゼロウェイストソーイングについて少し詳しくご紹介します。

ゼロウェイストソーイングとは、布を無駄にしないで洋服を作る方法です。パターンの各パーツは、まるでジグソーパズルのピースのように、使用する生地の寸法に完全にフィットするようにデザインされています。

「ゼロウェイスト」という言葉は、少し現代的に感じるかもしれませんが、実際には昔からの考え方です。生地が貴重だった時代には、日本の着物や東南アジアのサロン、スコットランドのキルト、南米のポンチョ、インドのサリー、中東のカフタン、ヴァイキングの衣服など、世界中の伝統的な民族服はすべて布を無駄にしないデザインがされています。

アプローチ

ゼロウェイストソーイングでは、次のような手法で生地を有効活用します。
  1. 1着の服全体で使い切る
  2. 他の服の一部として再利用する。
  3. 複数枚の服を裁断して、生地を全体として使いきる

デザインの工程が従来と異なる

従来の服づくりとゼロウェイストの服づくりには、大きな違いがあります。それは、デザインの工程です。

従来のファッションでは、デザイナーがまずスケッチを描き、その後、パタンナーがそのスケッチを元に実際のパターンを作ります。その後、別の人がそのパターンを使って生地を裁断するレイアウト(マーキング)を作成します。

ゼロウェイストソーイングでは、デザインとパターンメイキング、マーキングを同時に行います。つまり、デザイナーがパターン作りと裁断の知識も持っていなければなりません。この方法では、デザインの段階から慎重に計画し、生地を無駄にしない方法を研究する必要があります。

大学や専門学校では、サステナブルファッションのコースが増えています。将来的にはゼロウェイストを採用したパターンメイキングがより一般的になるかもしれませんね。


繊維の無駄を出さない

洋服を作る際、生地の約15%が無駄になると言われています。これは一見少ないように思えるかもしれませんが、実際には毎日約1億6400万平方メートルの生地が廃棄されています。これは東京ドーム約3507個分の生地が毎日捨てられているという計算になります。

さらに、廃棄される生地の60%は合成繊維でできており、その製造には水、石油、労働力、輸送、染料など、多くの資源が使われています。廃棄繊維を再利用する取り組みを行う工場も多くなっていますが、まだ多くがゴミとして処分されています。既製服の価格には、こうした廃棄繊維のコストも含まれていることを忘れてはなりません。

廃棄物管理システムが整っていない国々での大量生産工場では、環境や倫理的な問題も生じています。縫製工場は厳しい利益率で運営されているため、生地の効率的な使用に努めています。ですが、デザインやパターンの指定を変えることはできないため、工場にできる努力には限界があります。それなのに廃棄繊維の問題は工場側の問題とされがちで、デザイナーやブランドにはこの問題を解決する動機があまりありません。

ゼロウェイストパターンを使えば、消費者の手に渡る前の工程で発生する廃棄繊維を削減できることが大きな利点となります。

デザインの力で廃棄物の問題に取り組むことができるのです。
家庭でのソーイングでは、効率を追求する縫製工場よりも生地の無駄が出やすい傾向がありますが、ゼロウェイストソーイングをいち早く取り入れることができるのは、家庭でのソーイングの特権ですね!

新しいデザインの手法としての可能性

ゼロウェイストの手法を用いると、クリエイティブなパターンメイキングが可能になり、ユニークなデザインの服が生まれます。

従来のファッションデザインでは、インスピレーション、市場調査、生地や色の選定、スケッチを通じてデザインが表現されますが、ゼロウェイストパターンメイキングはこれとは全く異なるアプローチを取ります。それによって、今までのデザインプロセスでは生み出せなかった新しいシルエットや興味深いディテールを表現できる可能性があります。

英語には「Serendipity」という言葉があります。これは、偶然と幸運が重なって素晴らしい結果や体験を得られることを意味します。ゼロウェイストパターンメイキングにおいても、こうした偶然のインスピレーションが重要な役割を果たします。従来の方法のようにスケッチを描いてからパターンを起こすのではなく、実際に手を動かしながら、どんなデザインが出来上がるかを見つけることで、デザインの方向性が自然と見えてくるのです。

従来のデザインと同様に、ゼロウェイストパターンメイキングにもさまざまなアプローチがあります。ぜひ、多様なデザイナーのパターンに触れて楽しんでください。

ゼロウェイストの課題

生地幅
ゼロウェイストは特定の生地幅に合わせて作るため、生地幅が変われば再度デザインのやり直しです。生地方向ゼロウェイストに適した生地と適さない生地があります。例えば、上下方向に毛足がある生地や、プリント柄、ボーダー柄などは難しいですが、挑戦しがいのある素材とも言えます。

デザイン
ゼロウェイストの服は「コンセプチュアル」「シンプル」「アバンギャルド」「ミニマリスト」といったイメージを持たれることが多く、キャットウォークや学生の卒業制作みたいだ、という批判もあります。

グレーディング
シンプルなデザインではグレーディング(サイズ展開)は比較的容易ですが、必ずしも複雑なパターンが効果的とは限りません。ゼロウェイストのグレーディングは難しく、従来のプロセスとは全く異なります。従来のパターンはデザイン工程の後からグレーディングを行いますが、ゼロウェイストパターンでは最初からグレーディングを考慮する必要があります。

ゼロウェイストデザインの未来

ゼロウェイストパターンメイキングはファッション業界の未来なのでしょうか?

それはまだ分かりません。

ゼロウェイストデザイン自体は古くからある考え方ですが、現代の製造工程にとっては新しい考え方であり、まだ実験段階です。

ですがハンドメイダーである私たちは、既製服に先立ってゼロウェイストを取り入れることができると思うんです。

みらいパターンがきっかけになり、新しいソーイングに挑戦してくださる方が増えますように! 

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